「いつまでもデブと思うなよ」を読む

自分の人生は世間様から2周くらい遅れているんじゃないかと思いながら読む。

これが出版された頃は「新手のダイエット本なんだろうな」という程度の認識だった。著者が岡田斗司夫なんで、理屈っぽい話が続くのかな。それにしても彼のゲキヤセ姿はちと痛々しい、なあんて思っていたけれど、書名が露骨すぎて手に取ることもなく過ぎゆく日々。

しかしこの本、世間ではダイエットの決定版としてベストセラーになる。テレビでもバンバン特集されていたらしい。で、ちょっと興味がわいてネットで調べてみると「食べた物をメモしてカロリー計算するという、単純で当たり前の事が書いてあるだけ」的な感想が。なるほど。だからレコーディングダイエットなのか。そりゃまあ入ってくるより出て行くカロリーが多くなるように頑張れば、長期的にはやせるだろうな。でもそんな簡単な話をオタキングが本に?と疑問を感じつつ、またもやそれっきり。

そして今回、氏のホームページで途中まで無料公開してたんで立ち読みし、なるほどこれはと感動。さらに勢いで本編を購入。なーんだ、聞いてたのと全然違う内容じゃん。もう。





「食べた物をすべてメモしてカロリー計算するだけ」という世間様の指摘は外れてるわけじゃあない。最終的にはそういう段階に達することになるし。けどこの本に限っては、手法だけをとりあげて「それだけ」と言うのは完全に的外れ。

車の運転に例えるなら「食べた物をメモる」というのは、エンジンのかけかたやブレーキの踏み方といった車の操縦方法に相当する部分だ。それだけ覚えれば、広い庭がある金持ちなら中をグルグルと走り回るくらいのことはできるだろう。しかし目的はドライブである。その車でどうやってお台場まで行くのか。九十九里浜まで行くのか。京都まで行くのか。そこが問題であり主題なのだ。


本書はまず、自身の体験談からはじまる。太っていることで偏見に満ちた目で見られ、おまけに理不尽な差別にもあってきた。今の世の中見た目で判断されることが多い。だからあなたもやせたほうがいいよ。簡単だよ。これがダイエットへのモチベーションを上げるための、いわば点火の章だ。ダイエット本のターゲットは主に女性だろうから、容姿について揺さぶるのは効果的だろう。

そして、食べた物をメモする習慣を付けましょうという話になる。この時点ではまだ食事制限やカロリー計算をする必要はない。食べた物をひたすらメモし、体重を計るだけ。

しかしこれだけで記録はやがて統計となり、自分が普通の人より太っていて、それが維持されてしまう原因がどこにあるのかぼんやりと見えてくる。

この「気づき体験」への誘導は絶妙である。むしろこの自覚に至る過程を、ステップを踏んで親切に指導してくれる部分こそが本書の真骨頂なのだ。これがなければ他のダイエット同様に食欲を我慢するだけの辛く苦しい修行が続き、半年後には何もかも嫌になってリバウンドというお馴染みの結末を迎えるだろう。

一読すれば分かるが、この方法を実践したところで失う物は何もない。特殊なダイエット食品を毎日食べる必要もないしランニングや筋トレも不要だ。それなら試したところで損はないだろう。アイデアも画期的だし、理屈から言えば減らないハズはない。挫折しそうになったときのケアもある。ダイエットに興味があるなら迷わず試すといい。心配なら続編もある。いくつかのポイントをキチンと押さえつつ、楽しみながら続ければきっと成功する。


と、ここまでは書評なんだけど、実はこれを読んで私は岡田氏が好きになったんだな。オッサンが何を気持ち悪いことをと言われそうだけどね。ちなみに私はもちろん普通のオタク(!)に分類される人間だし、ゼネラルプロダクツでウルトラセブンに登場するウルトラアイのガレキを買ったこともある。氏の著作もいくつか読んでいる。

そのうえで言わせてもらうけど、本書は少々異色だ。他の本が、知的な好奇心を満たし、モヤモヤした事柄をビシっと言語化する、いわばパズルの攻略本のような面白さに満ちているのに対し、これはまるで迷える子羊のために書かれたバイブルのような優しさが隠されている。試しに本文から技術的な内容や技巧的な文書を片っ端から黒く塗りつぶしてみるといい。単なるハウツー本なら何も残らないだろう。だがこれには愛が残る。

予想だけど、仮に岡田氏の肉体が物理的時間的な制約のない量子的な存在であったなら、彼は西に痩せたいという人がいれば出かけていって指南し、東に失敗した人があればクヨクヨするなとはげましに行くのではなかろうか。それも自身の理論の正しさを証明するためというより、自分が味わった悔しさを他人から取り除きたい、そのためならどんな犠牲もいとわない、そんな覚悟を感じる。

役に立つ本以上の、人助けの本。単に体重を減らすためのテクニック紹介だけではなく、深みにはまって余計なストレスを背負ってしまった人の、心の重荷を取り去るための本。そんな本を書く人だったんだね。

氏がどういうタイプの人か知っているつもりだったんだけど甘かった。これ以降の彼がどうなるのか興味がわきましたよ。ちょっと目が離せない感じだな。同じく興味がある人は、Gyaoの「岡田斗司夫のひとり夜話」を見るといいんじゃないかな。無料だし。

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